『アメリカ 未完のプロジェクト』の書評をMMエッセイズ2に掲載しました

『アメリカ 未完のプロジェクト』(リチャード・ローティ、小澤照彦訳、晃洋書房、2000年、新装版は2017年、原書は1998年出版)の書評をMMエッセイズ2に掲載しました。
それなりに裕福な生活ができていたアメリカの労働者が経済のグローバル化により他国の安い賃金の労働者たちとの競合に陥り、以前のレベルの生活ができなくなり、エリート層との格差が拡大してきていること、それなのに既成政党とその政治家はそのような人々の苦境に対応しなかったこと、そのため彼らの不満を代弁してくれる立候補者が現れれば、その人に当然支持が集まるだろうこと、などが本書には書かれており、確かにトランプ政権登場を予測していたといえると思いました。
しかし私にとってさらに印象深かったのは、「アメリカは本来民主主義の理想を実現することを目指す国であり、実際理想に向かって進んできた輝かしい歴史がある。現在、本来目指していた理想も輝かしい歴史も見失われているが、それらを再認することで、再びアメリカ国民は誇りをもって自国を理想に向かって前進させることができる」というローティの主張です。
サングラハ教育・心理研究所の岡野主幹は、日本の国の理想を描いた最初のものとして十七条の憲法があり、そこには、「人間と人間との平和、人間と自然との調和、そういう二つの意味での『和』こそが、国が追求すべき最優先の理想なのだ」(『「日本再生」の指針』pp.21,22)という趣旨を読み取ることが可能であり、日本の国民がそれを自国の原点として確認し誇りを持てれば、日本は持続可能な「緑の福祉国家(生態学的に持続可能な福祉国家)」形成へと前進できると主張しています。
ローティの主張と岡野主幹の主張とは、その目標とするレベルに関して相違はありますが、いずれにせよ、国民が自国の原点に高邁な理想があったことを確認することで、誇りをもって自国を発展させ得るだろうと主張している点では一致しています。私が本書の概要を書評としてまとめたのは、そういうことに気づいたことが大きかったのです。

なおこのエッセイは、「サングラハ156号」(2017年11月25日発行)、「サングラハ157号」(2018年1月25日発行)に分載された書評を少し書き直したものです。

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