「『持続可能な福祉社会――「もうひとつの日本」の構想』(広井良典、ちくま新書) 書評」をMMエッセイズ2に掲載しました

本書によれば福祉国家とは「市場経済プラス〝事後的な〟所得再分配」という社会システムです。「『個人の自由な競争』としての市場経済の仕組みを前提とし、そこで生じる経済格差ないし富の分配の不平等といった問題を、社会保障などによっていわば補足的に是正する」(p.121)ものです。そういった福祉社会には次のような基本的課題がつきまといます。

平等を重視し社会保障の規模を大きくすると、個人や企業に多大な所得税を課すことになり経済活動のインセンティブを損なわせ、市場経済システム自体を揺るがしてしまう。逆に社会保障の規模を小さくすると、経済格差が次第に拡大し機会の平等が揺らぎ個人の自由な競争という民主主義の前提の一つを崩してしまう。

こういった課題を解消するために本書では事後的な所得の再分配から事前的な資産の再分配へと軸足を移す提案がなされます。年金などをベーシック・インカム(基礎所得保障)などに一元化・簡素化し、所得税を抑えて経済活動のインセンティブを保ちます。また相続税などの資産税を高くし、事前的な再分配によって教育を含めた「人生前半での社会保障」を強化し、「個人のチャンスの平等」ということを実現します。そうして従来型の福祉国家とも純粋な資本主義とも異なる新しい社会モデルの姿を描き出していきます。
また本書で構想される持続可能な福祉社会は自立した個人を基本単位にするものですが、バラバラな個人が単純に公共的原理に従うようなものであってはならないとします。普遍性と開放性を持ちながらも、同時に伝統的な共同体に見られる一体感をも持つコミュニティを形成できるかどうか、それが持続可能な福祉社会を実現するための決定的な条件になるとしています。
読後、10年以上前の2006年にこのような先見的な構想が立てられていたことに驚き、今こそ多くの方に読んでいただきたいと思いました。

なおこのエッセイは、「サングラハ第146号」(2016年3月発行)に掲載されたのをもとに少々書き直したものです。

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